母の介護をどうするか——そんな問題が現実になったとき、正解はないと思いました。でも、母の気持ちと家族の状況を丁寧に重ねていくと、今の自分たちにできる答えが見えてきました。
※本記事は個人の実体験に基づく一般的な情報です。制度や費用は変更されることがあるため、最新情報は自治体・専門家にご確認ください。
母の「自宅にいたい」という気持ち
母は「自分で歩けなくなるまでは家にいたい」とはっきり言いました。その言葉は今も私の判断の軸になっています。
年金は月10万円を切る金額です。施設に入ろうとすると、それだけでは到底足りません。兄妹と私で話し合ったとき、もし施設に入れるとなれば毎月10〜15万円ほどを3人で出し合わなければならないという現実が見えてきました。
在宅介護を選んだ理由
母の「仕事」が認知症の進行を遅らせている
母には毎日こなしている「仕事」があります。
- 食後の食器洗い
- 洗濯物のたたみ
- 近くのスーパーへ無料のアルカリ水をもらいに行く
- ハンディ掃除機での部屋の掃除
- ベランダの鉢植えの管理
無理にならない程度に、でも役割を持って動くことが母の生きがいになっています。施設に入ったら、この「日常の役割」がなくなってしまう——それが認知症の進行に影響するのではないかと感じています。
少し種明かしをすると、重い鍋やフライパンは私がこっそり先に洗っておきます。それでも間に合わず母が洗ってしまうこともあって、洗い残しがあることも。最近は翌朝こっそり洗い直しています。
私が脳出血で倒れてから、重い食器を洗うのが大変になり、少しずつ軽くて割れない食器に替えていきました。これが今の母にもちょうどよくなっていて、思わぬ形で役に立っています。
孫や娘が気軽に会いに来られる
施設に入ってしまうと、以前のように顔を出せる機会は減ります。孫や子どもたちが気楽に訪ねてくることを楽しみにしている母の笑顔を見ていると、私も幸せを感じます。その環境を守ることも、在宅を選んだ大きな理由のひとつです。
母の1日と「糠漬け」という名の愛情
母の1日は、朝目覚めると歯磨きと身支度から始まります。ベランダと玄関の掃除を済ませ、家中のゴミを回収してBOXに分別します。
朝食のあとは食器洗い。私が軽く洗ってシンクに置いておくと、「私が洗うからいいよ」と母が仕上げてくれます。その後はシンク周りの掃除まで。100均のネットも捨てずに手でゴミを取り、何度でも使います。戦争を経験した世代ならではのひと手間です。
そして毎日の楽しみが「糠漬けの手入れ」です。母の糠漬けは家族みんなの大好物。孫が遊びに来るとわかると、母は張り切ってきゅうりを買いに行きます。
ただ、家にきゅうりがあっても忘れて買ってきてしまうのが今の母です。「もうあるから買わなくていいよ」と言っても、次の日にはまた買ってきます。孫が来るとわかると、いつもの倍の量を買ってきます。普段は3本のところを6本。昨日3本買ったことも忘れて6本買ってきた時には「このきゅうり、何を作ろう…」と頭を悩ませます。料理が得意ではない私には、少し苦になる瞬間でもあります。
昼食のあとは近くのスーパーへ無料のアルカリ水をもらいに行くのが日課です。時々孫が付き合ってくれる日は、母の顔がとても明るいです。午後はバランスボールや足ツボで体を動かし、疲れたときは昼寝をします。
収集癖との向き合い方
在宅介護をしていて最も悩むこと——それが母の「収集癖」です。
「もったいない」「いつか使える」が母の口癖です。戦争を経験した世代にとって、物を捨てることは簡単ではありません。だからある程度は我慢しています。でも物はじわじわと増えていきます。
困るのはゴミだけではありません。母は「電気代がもったいない」と言って、片っ端からコンセントを抜いたりスイッチをオフにします。スマホの充電中でも母にはわかりません。ひどいときは炊飯器のタイマーをセットしていたのにコンセントを抜かれてしまったこともありました。
母が収集したものをこっそり処分するしかないのですが、母は鋭い。物がなくなると必ず「あれはどこ」と聞いてきます。先日も数珠がなくなった時、「あんたが捨てたでしょ」と言われ、私もムッとしながら探しました。数日後、ベッドのマットの下から出てきました。このパターンは一度や二度ではありません。(私が本当に捨ててる場合が多いので、このようなことを言われても仕方がないのですが・・)
物を捨てる時の母の悲しそうな顔を見ると、胸が痛くなります。でも放っておけば家の中が物だらけになる。その板挟みが、在宅介護の地味なしんどさのひとつです。

在宅介護の現実
現在の母は認知症が軽度です。異食や徘徊がないのは本当に助かっています。ただ、喧嘩をすると猜疑心が強くなり、まるで別人のように豹変することがあります。落ち着いてくると、またいつもの母に戻ります。
以前は5〜6時間の外出ができていました。でも最近は冷蔵庫を自分で開けることをしなくなりました。今は保温機能のあるお弁当箱にお昼を入れて出かけますが、冷蔵庫のサラダや飲み物には手をつけていないことが増えています。なので、少しずつ外出時間をずらしたり、短くして工夫してます。
在宅介護は「できる」と「できない」の境界線が、少しずつ動いていきます。
喧嘩の翌日、ケアマネジャーが来た
2日前に大きな喧嘩をしました。原因はまたゴミの収集癖でした。当時の私は体調もすぐれず、副業の結果も出ず、気持ちが追い詰められていました。
喧嘩になると母は決まって「一人暮らしをするから住むところを探して」と言います。私が「もう一人で火を使って料理はできないから施設の方が楽だし安心じゃないの?!」と言い返したら、「じゃあ施設に入るから探して」と言われました。(その言葉を聞いて義父の施設探しが大変だったことを思い出し、母の施設探しの時は兄弟3人で相談しようと思いました)
翌日、ちょうどケアマネジャーが来る日でした。「ケアマネジャーはお母さんの担当なんだから、思っていることを自分で相談しなさい」と伝えました。すると母はケアマネの前で涙ぐんで「施設を探してほしい」と言ったのです。ケアマネジャーも驚いていました。
私はずっと「デイを週2回にしたい」と思っていました。ケアマネジャーにも相談して、ケアマネジャーやデイの職員にも、何気なくお願いしてましたが、母は頑なに断り続けていました。
介護する側の本音
介護離職をした方の多くは、心の片隅に「働きたい」という気持ちを抱えているのではないでしょうか。私のように自分が体調を崩した場合は、ある程度の諦めがつくかもしれません。でもその火種が完全に消えることはない。
日々の些細な我慢が積み重なり、爆発してしまうことがあります。それが実母だから我慢できることも多い。でも義父や義母が相手だったら、また違う感情になることもあるでしょう。
私が母との生活を穏やかに続けられているのは、感謝の気持ちがあるからだと思っています。一人では生活が苦しくなる現実の中で、ある意味、私は母に助けられています。母も娘のために頑張っていると思っている(それは本当のことです。)
でも気持ちは状況で変わります。体調が悪い日、副業の成果が出ない日、集中したいのに集中できない日、そんな時は感謝より苛立ちが先に出てしまいます。
夜中に母が突然歌を歌い出すことがあります。明け方近くに「変な夢をみた」と横に寝ている私を起こすこともあります。体調が悪くても、おちおち横になっていられません。でも動かされることで下肢筋力の低下を防げるという意味では、ある意味ありがたいことでもあります。
預金残高が少しずつ減っていくと、「働きたい」ではなく「働かなければ」という気持ちが沸々と湧いてきます。でも自分の体力を考えると、旅行に行けるのは今なのかもしれません。2〜3年後の自分の体力には正直自信がありません。
だからデイが週2回になったことは、私にとって大きな変化です。その時間を使って行きたいところに行きたい。でも心の片隅で「自分勝手なのでは」と自問自答してしまう自分もいます。
兄妹で決めた「今の答え」
去年から兄妹に少し金銭的な援助をしてもらうことで合意しました。そうすることで、私も助かるし、母も施設に入らなくていい。
もし私が先に倒れたり、母を見られなくなったときは施設に入れることを考えています。母もそれを薄々わかってくれている様子です。
在宅介護か施設か、判断の目安
在宅介護が向いているケース
- 本人が自宅を強く希望している
- 認知症が軽度で、異食・徘徊がない
- 家族や兄弟で費用・役割を分担できる
- 本人に「日課」や「役割」がある
- 介護する側の健康が保たれている
施設入所を考えるタイミング
- 一人で留守番ができなくなってきた
- 夜間の対応が必要になった
- 介護する家族が体調を崩した、または限界を感じている
- 認知症が進み、安全の確保が難しくなった
お金の現実
| 施設の種類 | 月額目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 6〜13万円 | 入居待ちが数年になることも。早めの申し込みが必要 |
| グループホーム | 12〜18万円 | 認知症専門・少人数制 |
| 有料老人ホーム | 15〜30万円以上 | 比較的入りやすいが費用が高め |
特養は費用が抑えられる分、入居待ちが数年になることも。「いざとなったら特養に」と考えている場合は、早い段階から申し込みだけでも済ませておくことをおすすめします。
なお、特養への入居には「要介護3以上」という条件があります。まだ要介護度が低い段階では申し込みができないため、介護認定の状況を確認しながら早めに情報収集しておくことをおすすめします。
※上記の金額は目安です。地域・施設・時期によって異なります。最新の費用は各施設・自治体窓口に直接ご確認ください。
介護する側が倒れてはどうしようもない
これが一番伝えたいことです。在宅介護を選ぶことが「いい選択」とは限りません。状況によっては施設を選ぶことが、本人のためにも家族のためにもなることがあります。
自分の時間と残りの人生を大切に
介護をしていると、社会から離れ孤独感を感じることがあります。自由に外出もできない。自分の時間もなかなか持てない。そして気づけば自分自身も歳をとっていきます。体力も少しずつ落ちていきます。
介護する側の残りの人生も大切です。これは声を大にして言いたいことです。
私が今、苦戦しているのは、在宅でどう収入を得るかということです。そして
つくづく思います。もう少し早く、在宅でできる副業を始めていればよかった、と。
これは介護離職をした方だけでなく、子育て中の若いパパ・ママにも言えることだと思います。子育て中はどちらかが仕事を制限せざるをえない時期があります。でも若ければ、子どもから手が離れれば仕事に戻れます。介護離職の場合は、自分の年齢を考えると、スキルがなければ再就職は現実的に難しいことも多い。
実際、失業保険を受給していた頃に職安に相談したことがあります。「パソコンなどのスキルを磨きたい」と伝えたところ、「あなたは看護師の資格を持っている。難病があっても働ける場所はたくさんある。そちらを探した方が再就職が早い」と言われました。その通りだとは思いました。でも心の片隅には、突発的に休むことが自分にとってどれほどの精神的負担になるか。それをよくわかっている自分もいます。
タイムバケットという考え方
「タイムバケット」とは、人生の残り時間をいくつかの区切りに分けて、その時期にやりたいことをリストアップしていく考え方です。両学長のYouTubeで知って以来、私の中に根付いている考え方のひとつです。
介護をしている方、またはこれから介護が始まりそうな方に伝えたいことがあります。介護は突然やってきます。
だから介護が始まる前に
- 行きたい場所に行っておく
- 身につけたいスキルを身につけておく
- やりたいことをやっておく
この三つを、できるうちにやっておくことをおすすめします。
私自身はある程度、したいことはしてきました。だから今の状況にも折り合いはつけられています。
でも心残りがあるとすれば、国内旅行です。海外にはいくらか行くことができました。でも国内は「歳をとってからゆっくり巡ろう」と思っていたのです。温泉地も、古い街並みも、まだ行けていない場所がたくさんあります。その「ゆっくりしたい」という計画が、脳出血で一変しました。
健康だけが取り柄だと思っていました。その自信が、根拠のない過信だったのかもしれません。
健康は最大の資産
最後にこれだけは伝えさせてください。
健康は最大の資産です。お金よりも、時間よりも、まず健康があって初めて何かができます。
「自分は大丈夫」という過信はしない方がいいです。ここに生きた見本がいます。私がそうです。
元気なうちに動く。行きたいところに行く。やりたいことをやる。スキルを身につける。介護が始まってからでは、できることが一気に狭まります。
このブログを読んでいる方が、今この瞬間から何か一つでも動き出してくれたら・・・それだけで書いた意味があります。

