親が亡くなると、悲しむ間もなく多くの手続きが始まります。
死亡届、年金停止、銀行口座の凍結、相続、実家の問題――短期間でこれだけのことを判断しなければならない現実に、多くの方が「何から始めればいいか分からない」と感じます。
私自身、義父の介護・施設対応・看取り、そして甥の突然死を経験しました。仕事と介護を両立する中で自分自身も脳出血で倒れたこともあります。それぞれのケースで手続きの複雑さはまったく違いましたが、共通して感じたのは「事前に知っていれば、もう少し落ち着いて対応できた」ということです。
この記事では、親が亡くなった後に必要な手続きを時系列でまとめながら、実体験からわかった「準備してよかったこと」「本当に大変だったこと」をお伝えします。
※本記事は一般的な情報と個人の体験をもとにまとめたものです。相続・不動産・法律に関わる判断は、専門家へご相談ください。
親が亡くなった直後にやること まず7日以内
亡くなった直後は、気持ちの整理がつかないまま対応しなければならないことが続きます。最低限、以下を把握しておきましょう。
死亡診断書を受け取る
病院で亡くなった場合は、医師から死亡診断書が発行されます。自宅で亡くなった場合は、かかりつけ医に連絡するか、状況によっては救急・警察への連絡が必要になることもあります。
死亡診断書は死亡届と一体になっており、死亡届を提出すると原本は原則として返却されません。提出前にコピーを複数枚取っておくと、その後の手続きで内容を確認するときに役立ちます。原本や死亡診断書の写しが必要な手続きについては、提出先へ事前に確認してください。
死亡届を提出する(7日以内)
死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に市区町村へ提出します。多くの場合は、葬儀社が提出を代行してくれます。提出後に火葬許可証が交付され、火葬後は火葬済みであることを証明する書類として返されます。納骨の際に必要になるため、大切に保管してください。
葬儀の手配
葬儀社との打ち合わせも早い段階で始まります。家族葬・直葬・一般葬など形式によって費用や流れが大きく変わります。
私の甥が突然亡くなったとき、妹は家族葬を選びました。突然のことで気持ちの整理もつかない中での判断でしたが、事前に「葬儀の形式」について家族で話したことがあったことが、少し助けになったと思います。親が元気なうちに「どんな葬儀を望むか」を聞いておくことは、残された家族への大きな配慮になります。
死亡後、早めに確認する役所・年金関係の手続き
葬儀が終わると、役所関係の手続きが続きます。
※必要な手続きや期限は、加入していた年金・健康保険、世帯構成、自治体によって異なります。市区町村の「おくやみ窓口」や年金事務所、勤務先などへ確認してください。
| 手続き | 主な期限・目安 | 窓口 |
|---|---|---|
| 年金受給停止 | 速やかに | 年金事務所 |
| 健康保険証の返却 | 14日以内 | 市区町村・勤務先 |
| 介護保険資格喪失 | 14日以内 | 市区町村 |
| 世帯主変更 | 14日以内 | 市区町村 |
年金の停止が遅れると、後から返還を求められることがあります。受給していた口座番号・年金番号を事前に把握しておくと、手続きがスムーズです。
自治体によって必要書類が異なる場合があります。まとめて手続きできる「おくやみ窓口」を設けている自治体もありますので、事前に確認してみてください。
1か月以内に進めたいこと お金・契約関係
銀行口座について
金融機関が名義人の死亡を把握すると、一般的に口座は凍結され、入出金や口座振替ができなくなります。凍結後の手続きには、戸籍関係の書類や相続人を確認する書類などが必要になりますが、必要書類は金融機関や相続の状況によって異なります。
生前に確認しておきたいのは、金融機関名、支店名、口座の用途、公共料金などの引き落とし先です。葬儀や当面の生活に必要なお金については、本人名義の口座から無断で引き出すのではなく、家族で資金の準備方法を話し合っておくと安心です。
遺産分割前でも一定の範囲で預貯金を払い戻せる制度があります。利用条件や必要書類は、取引先の金融機関へ確認してください。
なお、2019年以降は「遺産分割前の払い戻し制度」により、一定額であれば相続手続き前でも引き出せるようになっています。詳細は各銀行に確認してください。
各種契約の解約・名義変更
- クレジットカードの解約
- 携帯電話の解約
- サブスクリプションの停止
- 公共料金(電気・ガス・水道)の名義変更または解約
- NHK受信料の停止
放置すると引き落としが続くものもあります。親のスマホや郵便物を確認しながら、契約を洗い出していきましょう。
3か月以内に確認する 相続の手続き
相続放棄には「相続開始を知った日から3か月以内」という期限があります。借金がある可能性がある場合は、財産状況を早めに確認してください。
相続手続きの基本の流れ
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人を確定する(戸籍謄本・除籍謄本を集める)
- 財産と負債の状況を把握する
- 遺産分割協議を行う(相続人全員の合意が必要)
- 各種名義変更・申告を行う
相続税の申告が必要な場合は、10か月以内が期限です。
再婚家庭の相続は特に注意が必要
再婚家庭では、戸籍上の親子関係によって法定相続人が分かりにくくなることがあります。前の婚姻で生まれた実子と再婚後に生まれた実子は、原則として同じ立場の相続人です。一方、配偶者の連れ子は、養子縁組をしていない場合、法律上の親子関係がないため、当然には相続人になりません。家族関係が複雑な場合は、戸籍を確認したうえで弁護士や司法書士などへ相談してください。
養子縁組や遺言書の有無によって手続きの複雑さはまったく変わります。再婚家庭の方は特に、元気なうちに遺言書の準備と家族間の話し合いをしておくことを強くおすすめします。
実家・不動産の問題 後回しにすると大変になる
不動産の相続登記は2024年4月から義務化されました。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請する必要があります。正当な理由なく申請を怠った場合は、10万円以下の過料の対象になる可能性があります。個別の期限や手続きは、法務局や司法書士へ確認してください。
空き家になる場合の注意点
誰も住まなくなった実家は、維持するだけで費用がかかります。
- 固定資産税(特定空き家に認定されると税負担が増える場合あり)
- 草木の管理・定期的な換気・掃除
- 修繕費(雨漏り・外壁など)
- 火災保険・地震保険の継続
「とりあえず残しておこう」という判断が、数年後に大きな負担になることがあります。売却・賃貸・解体など、選択肢とそれぞれの費用・メリットを早めに把握しておきましょう。
親族間のトラブルを防ぐために
実家をどうするかは、感情が絡みやすい問題です。「思い出のある家だから残したい」という気持ちと「維持できない」という現実がぶつかることがあります。
介護をしていた人と、関わりが少なかった人とでは温度差が出やすいのも事実です。感情だけで話し合いをすると、関係が壊れることもあります。できれば親が元気なうちに「実家をどうしたいか」を本人の口から聞いておくことが、後のトラブル防止につながります。
介護している側が倒れないために
親の介護と、亡くなった後の手続きは、想像以上に体力・精神力を消耗します。
私自身、義父の介護を続けながら仕事も続けていた時期に、脳出血で倒れました。仕事の疲れが主な原因でしたが、介護の負担も積み重なっていたと今ではそう感じています。
義父は施設を3か所転々としました。最初の施設では強制退去になり、2つ目の施設では看護師が不在のため在宅酸素の対応が難しくなり移動。3つ目の施設でコロナが流行し、コロナ肺炎で亡くなりました。施設に入ってからも、体調急変のたびに病院へ駆けつけ、施設探しと手続きが続きました。「施設に入れたから終わり」ではありませんでした。
あの頃の私は、「疲れた」と口に出すことすらできませんでした。誰かに頼ることへの罪悪感。「自分がやらなければ」という思い込み。気づいたら限界をとっくに超えていたのだと思います。
倒れてから気づきました。自分が倒れることが、一番周りを困らせると。介護をしている方に伝えたいのは、「助けを求めることは逃げではない」ということです。一人で抱え込むことが、最も危険な選択だと今は思っています。
こうした経験から、強く伝えたいことがあります。
- 一人で抱え込まないこと
- 介護する側の健康も守ること
- ショートステイや外部サービスを早めに使うこと
- 家族で役割を分担すること
介護をする側が倒れてしまっては、介護される側も困ります。自分を守ることも、介護の一部だと思ってください。
生前準備が家族を助ける 母が遺言書を準備した理由
私の母は、認知機能が低下する前に遺言書を準備していました。介護の状況や家族関係を踏まえた上での判断でした。
遺言書によって本人の意思が明確になれば、遺産分割を進めやすくなる場合があります。ただし、内容や作成方法によっては、新たな問題が生じることもあります。
親が元気なうちに話し合っておきたいことをまとめました。
- 財産・口座・保険の情報と保管場所
- 遺言書の準備(自筆証書遺言や公正証書遺言など、適した方法を専門家に相談する)
- 葬儀の希望(形式・場所・規模)
- お墓・供養の希望(散骨・樹木葬・手元供養など)
- 実家をどうするか
- 介護が必要になったときの希望
一度に全部話し合う必要はありません。少しずつ、普段の会話の中で確認しておくだけでも、いざというときの助けになります。
すぐ使えるチェックリスト
※手続きの期限や制度は法改正により変更されることがあります。最新情報は法務局・税務署・弁護士等にご確認ください。
亡くなった直後〜7日以内
- □ 死亡診断書を受け取った(コピーを複数枚取った)
- □ 親族・関係者へ連絡した
- □ 葬儀社を決めた
- □ 死亡届を提出した(7日以内)
- □ 火葬許可証を保管した
14日以内
- □ 年金受給停止の手続きをした
- □ 健康保険証を返却した
- □ 介護保険の資格喪失届を出した
- □ 世帯主変更の手続きをした
1か月以内
- □ 銀行口座の状況を確認した
- □ クレジットカード・携帯を解約した
- □ サブスク・公共料金を整理した
- □ 生命保険・医療保険の請求手続きをした
3か月以内
- □ 遺言書の有無を確認した
- □ 相続人を確定した
- □ 財産・負債の状況を把握した
- □ 相続放棄が必要か検討した(3か月以内が期限)
4か月以内
- □ 準確定申告が必要か税務署や税理士へ確認した
10か月以内
- □ 相続税の申告が必要か確認した
- □ 必要な場合は相続税の申告と納税を行った
それ以降
- □ 遺産分割協議を進めた
- □ 不動産の相続登記をした(3年以内・義務)
- □ 相続税申告をした(必要な場合・10か月以内)
- □ 実家の今後(売却・賃貸・維持)を家族で決めた
専門家に相談したほうがいいケース
- 不動産の相続登記:司法書士
- 不動産の売却や査定:不動産会社
- 相続税の申告や税金の相談:税理士
- 相続人同士の争いや法的な交渉:弁護士
- 遺言書や相続関係の書類作成:弁護士・司法書士・行政書士など
「自分でなんとかしよう」と一人で抱え込みすぎないことが、最終的に家族関係も守ることにつながります。
まとめ
親が亡くなった後の手続きは、悲しみの中で一気に押し寄せます。死亡届・年金停止・銀行口座・相続・実家問題と、期限のあるものも多く、精神的に追い詰められる方も少なくありません。
私自身の経験から、一番伝えたいことはシンプルです。
「親が元気なうちに、少しずつ準備しておくこと」
財産の確認・遺言書・葬儀の希望・実家をどうするか――一度に全部でなくていいのです。少しずつ話しておくだけで、残された家族の負担は大きく変わります。
私がこの記事を書いたのは、「知っていれば違う選択ができた」という後悔を、少しでも減らしてほしいからです。手続きのことだけでなく、自分自身を大切にしながら、家族と向き合ってほしいと思っています。
まずはこの記事のチェックリストを手元に置いて、今できる準備から始めてみてください。
参考資料
・裁判所「相続の放棄の申述」
・国税庁「相続税の申告と納税」
・法務省「相続登記の申請義務化」
・日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」
※この記事は私個人の体験・考え方をもとに書いています。手続きの詳細は自治体・専門家にご確認ください。

