私が最初に仕事を辞めたのは、脳出血の前のことでした。
甥が突然亡くなり、自分自身も潰瘍性大腸炎が悪化して下血が続いていました。体が限界を超えていたことに加え、施設長との仕事への向き合い方の違いも大きくなっていました。そのまま続けることができなくなり、退職しました。
失業保険を受けながら、ゆっくり過ごした
退職後は1年以上、失業保険の給付を受けながら過ごしました。あの頃は久しぶりに自分のペースで生活できた時期でもありました。
パートとして職場に戻った
しばらくして、施設長が異動になったという知らせが届きました。元の職場の仲間から「戻ってこないか」と連絡があったのです。
ちょうど失業保険もそろそろ終わる頃でした。体調も回復していたし、「忙しくしていた方が余計なことを考えなくて済む」という気持ちもありました。パートとして復帰することにしました。
でも復帰してから1ヶ月半ほどで、脳出血で倒れました。
あの日の出来事が決定打になった
退院して、復帰してからある日、車椅子から離れて転倒している入居者を発見しました。以前の私なら、すぐに車椅子に乗せるか、ベッドに移動させるか、自分で対応できていました。でもその時の私には、誰かを呼ばなければ対応できなかった。
その瞬間、こんなことを考えました。
「もしこれが心肺蘇生をしなければならない状況だったら、私は果たしてできるのだろうか」
看護師として積み上げてきた自信が、音を立てて崩れていくような感覚でした。患者さんの命に関わる現場で、自分が全力で動けない・・・
その現実と向き合ったとき、続けることへの迷いが確信に変わりました。
誰にも相談しなかった
辞めることは、誰にも相談しませんでした。家族にも、上司にも。
「タイムバケット」という考え方を知ってから、残りの人生で何がしたいかを自分自身に何度も問いかけました。不思議なことに、自分のことだけを考えようとすると、先に浮かぶのは両親のこと、甥や姪のことでした。自分自身のことだけを考えるのが、こんなに難しいとは思いませんでした。
それでも何度も問いかけた末に、辞めることを決めました。
辞めてよかったこと
辞めてよかったと感じる瞬間があります。
朝、海を見ながら散歩する時間。母と一緒にゆっくり過ごすこと。あのゆるい時間の流れが、今はとても心地よいのです。
また仕事を再開したら、きっとまた同じように悩んで、体力的にも限界を超えてしまう気がしています。今の自分には、このくらいのペースが合っていると感じています。
後悔していること
正直に言うと、後悔があります。
一番大きな後悔は、金銭的なことではありません。
脳出血を発症する前から、自分はいくつもの持病があるため「在宅でできる仕事に切り替えたい」と考えていました。定年後も、働く時間を少しずつ減らしながら働き続けたいとも思っていました。
でも結局、仕事が忙しくてずっと後回しにしてしまいました。
あのとき少しでも動いていれば、脳出血で倒れた後の生活はもう少し違ったかもしれない。それが今でも一番悔やまれることです。
そしてもう一つ、正直に言うと、どこかで「親の介護は自分にはまだ先だ」と思っていた節があります。看護師として介護の現場にいながら、いざ自分の身に降りかかったとき、こんなにも大変だとは想像していませんでした。
金銭的な不安ももちろんあります。仕事を辞めたことで収入がなくなり、年金を繰り上げ受給することにしました。今は母と一緒に暮らすことで生活を安定させていますが、自分が一人になった時の
老後のことを考えると不安がないとは言えません。
今は少しずつ株の勉強をしたり、在宅でできる副業がないかを模索しています。
「備えは早いほどいい」それは頭ではわかっていました。でも人はなかなか動けないものです。
だからこそ、今この記事を読んでいる方には、少しでも早く動いてほしいと思っています。
介護離職を考えている人へ
辞める前に、知っておいてほしいことがあります。
まず使える制度を確認してほしい
- 介護休業制度 最大93日間、介護のために休業できます
- 介護休暇制度 年5日(対象家族が2人以上なら10日)取得できます
- 短時間勤務・在宅勤務への変更 会社に相談することで働き方を変えられる場合があります
- ケアマネジャーへの相談 介護サービスを増やすことで、仕事を続けながら負担を減らせる場合があります
辞めた後の現実
- 収入がなくなることで、精神的な余裕が失われやすくなる
- 年金の繰り上げ受給は、生涯受給額が減る
- 介護が終わった後に再就職が難しくなる場合がある
- 社会とのつながりが薄くなりやすい
後悔と、よかったが両方ある
「正解だった」とは言い切れません。でも「間違いだった」とも思っていません。
あのとき無理を続けていたら、今ここで母と穏やかに過ごすことはできなかったかもしれない。海を見ながら散歩することも、こうして文章を書くことも、なかったかもしれない。
介護離職に正解はありません。大切なのは、辞める前に使える制度を知っておくこと。そして辞めた後の生活を、少しでも具体的にイメージしておくことだと思います。

