親の介護は、ある日突然始まることがあります。転倒、入院、認知症の進行――きっかけは様々ですが、「何も準備していなかった」という状態で始まると、慌てるのは当然のことです。
義父の介護が始まったとき、私もそうでした。浴室で転倒し、その後に在宅酸素療法が始まり、生活のサポートが一気に増えました。通院一つとっても、診察・会計・薬の受け取りまで対応するとほぼ1日がかり。「こんなに大変だとは思っていなかった」というのが正直なところでした。
この記事では、介護が始まる前にやっておくべき準備を整理します。ただ、一つ大切な視点をお伝えしたいのです。
「同居している親」と「別居している親(特に持ち家)」では、準備すべき内容がかなり違います。
この違いを踏まえながら、具体的に何から始めればよいかをお伝えします。
まず確認 同居か別居かで準備内容が変わる
介護の準備を考えるとき、「親と同居しているか」「別居しているか」によって、直面する問題が変わってきます。
| 同居の場合 | 別居(実家あり)の場合 | |
|---|---|---|
| 日常サポート | すぐ気づける・対応しやすい | 頻繁に通う必要がある |
| 緊急対応 | 比較的早い | 駆けつけるまでに時間がかかる |
| 住まいの問題 | バリアフリー化などで対応しやすい | 実家の改修・維持・処分の判断が必要 |
| 特有の課題 | 介護者の生活・仕事との両立 | 実家じまいの問題が発生することも |
特に別居で親が持ち家に住んでいる場合、介護が進むにつれて「その家をどうするか」という問題が必ず出てきます。これについては後ほど詳しく触れます。
共通してやっておくべき5つの準備
同居・別居にかかわらず、介護が始まる前に整えておきたい基本的な準備があります。
① 親の健康状態を把握する(最優先)
緊急時に「かかりつけ医がどこかわからない」「何の薬を飲んでいるかわからない」という状況になると、対応が大幅に遅れます。元気なうちに、以下の情報を整理しておきましょう。
- 持病・既往歴
- 服用中の薬(お薬手帳)
- かかりつけ医・病院名・連絡先
- 通院頻度・次回受診日
お薬手帳は1冊にまとめ、スマホで写真を撮って家族間で共有しておくと安心です。紙の一覧表を作り、冷蔵庫などの目につく場所に貼っておくのもおすすめです。
② 介護保険制度の流れを知る
介護サービスは「申請すればすぐ使える」わけではありません。要介護認定の申請から実際にサービスを利用できるまで、1か月前後かかる場合があります。制度の流れだけでも事前に知っておくと、いざというときに動きやすくなります。
- 市区町村または地域包括支援センターに相談
- 要介護認定の申請
- 訪問調査・主治医意見書
- 認定結果の通知
- ケアマネジャーとケアプランの作成
まずは地域包括支援センターの場所と連絡先だけでも確認しておきましょう。「相談先を知っているかどうか」で初動が大きく変わります。介護が始まる前でも相談だけは受け付けてもらえますので、一度足を運んでみることをおすすめします。
③ 家族の役割分担を決めておく
介護は「誰が何をするか」が曖昧なまま始まると、特定の一人に負担が集中します。私自身もかなり一人で抱え込んでいました。仕事と介護を両立しながら、脳出血で倒れた経験があります。
事前に決めておきたいのは以下の点です。
- 通院付き添いの担当者
- 役所・保険などの手続き担当者
- 日常的なサポートの担当者
- 緊急時の連絡順序
「できる人がやる」ではなく、役割を言葉にして決めておくことが大切です。遠方に住んでいる兄弟は「お金で支援する」という分担も、現実的な選択肢の一つです。
④ 住まいの安全対策を確認する
転倒は介護のきっかけになりやすい出来事です。義父も浴室での転倒が、その後の介護が本格化するきっかけになりました。
確認しておきたいチェックポイントはこちらです。
- 段差が多い場所はないか
- 手すりがないか
- 浴室・トイレが滑りやすくないか
- 夜間の照明は十分か
滑り止めマットや簡易手すりは比較的安価で設置できます。また、介護保険の認定を受けると住宅改修費の支給対象になる場合もありますので、詳細は地域包括支援センターや自治体に確認してください。
⑤ お金と手続き情報を整理する
介護が始まると、手続きや書類の多さに驚きます。「情報がどこにあるかわからない」ことが、大きな負担の一つになります。
最低限まとめておきたい情報はこちらです。
- 年金の種類・受取口座
- 銀行口座(どの銀行に何口座あるか)
- 保険契約(生命保険・医療保険)
- 公共料金・各種契約関係
- 不動産の情報(持ち家の場合)
1冊のノート(終活ノート)にまとめて、保管場所を家族に共有しておきましょう。暗証番号など機密性の高い情報は別管理にすることをおすすめします。
別居・持ち家の場合に考えておきたい「実家じまい」の問題
親が別居で持ち家に住んでいる場合、介護が進むにつれて必ずと言っていいほど出てくるのが「実家をどうするか」という問題です。
施設入所や同居介護が始まると、誰も住まなくなった実家は「空き家」になります。空き家になった家は、維持費がかかり続ける一方で、放置すると劣化も進みます。また、相続のことを考えると、早めに方針を決めておかないと、後で家族間の話し合いが複雑になることもあります。
実家じまいで考えるべき選択肢
| 選択肢 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 売却する | 維持費がなくなる・介護費用に充てられる | 思い入れのある家を手放す決断が必要 |
| 賃貸に出す | 家を残しながら収入を得られる | 管理の手間・空室リスクがある |
| そのまま維持する | いつでも戻れる選択肢を残せる | 固定資産税・維持費・劣化リスクがある |
| リフォームして同居 | 親を身近で見守れる | 工事費用・同居の生活調整が必要 |
どれが正解ということはありません。ただ、「介護が始まってから慌てて決める」のと「事前に家族で方針を話し合っておく」のとでは、精神的な負担が大きく違います。
実家じまいを考える前に確認すること
- 名義は誰か(親本人・配偶者・共有名義など)
- ローンは残っているか
- 固定資産税はいくらかかっているか
- 相続人は誰になるか(兄弟姉妹がいる場合)
- 本人はどうしたいと思っているか
特に名義の確認は重要です。親が認知症になってしまうと、本人の意思確認が難しくなり、不動産の売却や賃貸の手続きが一気に複雑になります。元気なうちに話し合える環境を作っておくことが、後悔しない実家じまいの第一歩です。
すぐ使えるチェックリスト
共通チェック
- □ お薬手帳の場所を把握している
- □ かかりつけ医の連絡先を確認した
- □ 地域包括支援センターを調べた
- □ 家族で役割の話し合いをした
- □ 自宅の危険箇所を確認した
- □ 重要書類の保管場所を家族に共有した
別居・持ち家の場合の追加チェック
- □ 実家の名義・ローンの状況を確認した
- □ 固定資産税の金額を把握している
- □ 実家をどうするかについて家族で話し合った
- □ 本人の「家に対する気持ち」を聞いた
- □ 相続の観点から専門家への相談を検討した
よくある質問よくある質問
Q. いつから準備を始めればいいですか?
明確な時期はありませんが、70代前後から意識し始める家庭が多いようです。「まだ元気だから」と思っているうちに話しておくことが、一番スムーズに進みます。
Q. 親が話し合いを嫌がる場合は?
「介護の話」「お金の話」と切り出すと嫌がられることがあります。「もし何かあったときのために確認しておきたい」「自分たちも将来のことを考えている」というように、親を特別視しない伝え方をすると受け入れられやすいです。
Q. 実家じまいは必ず必要ですか?
必ずしも必要なわけではありません。ただ、介護が本格化したときに「判断しなければならない状況」が突然やってきます。事前に選択肢を知っておくだけでも、いざというときの心の準備が違います。
Q. 仕事をしながら介護はできますか?
可能ですが、相当な体力と準備が必要です。私自身、仕事と介護を両立しようとして脳出血で倒れた経験があります。介護休業制度や訪問介護・デイサービスなどの外部サービスを早めに活用することが、共倒れを防ぐ上で非常に重要です。「自分一人でなんとかしよう」と抱え込むのが最も危険なパターンです。
Q. 親が認知症になってしまうと、実家の処分はできなくなりますか?
判断能力が失われると、本人名義の不動産の売却や賃貸契約が原則としてできなくなります。「成年後見制度」を利用すれば手続きは可能ですが、時間と費用がかかります。元気なうちに「家をどうするか」を話し合い、必要であれば「家族信託」などの仕組みを検討しておくことをおすすめします。
Q. 兄弟がいるのに協力してもらえない場合はどうすればいいですか?
介護の負担は「近くに住んでいる人」に集中しやすく、これは多くの家庭で起きている問題です。感情的になる前に、役割・費用・頻度を具体的に提案する形で話し合いの場を設けることが有効です。それでも難しい場合は、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると、第三者として調整に入ってもらえることもあります。
Q. 介護費用はどのくらいかかりますか?
在宅介護か施設介護か、また介護度によって大きく異なります。在宅の場合は月3〜10万円程度が目安ですが、介護度が上がるにつれて訪問サービスが増え費用もかさみます。施設の場合は月10〜20万円以上になることも。また、突然の入院や施設の転居など、予想外の出費が重なることもあります。親の年金・貯蓄・保険の状況を早めに把握しておくことが重要です。

